物理 > 動く解説 > 物理 第3編 波|第2章 音の伝わり方
\(x\) 軸上に,まったく同じ音を同時に出し続ける(同位相・同じ振動数 \(f\)・同じ振幅の)音源を 2 つ置く。 左を O,右を O′ とし,そのちょうど真ん中の点を D とする(O から D まで,D から O′ までは,どちらも距離 \(L\))。 風が無いときの音速を \(V\) とし,ここに \(x\) 軸の正の向きへ速さ \(w_0\)(\(w_0 < V\))の一様な風が吹く。 どちらの音源からも距離が等しい D では,音は強め合ったままだろうか。
音源が同位相でも,風が「行き」と「帰り」の速さを変えるので,同じ距離 \(L\) を進むのにかかる時間がちがってくる。 その時間のずれが,そのまま位相のずれになる。ずれが半周期になったとき,D では山と谷が重なって合成波の振幅が 0 になる。
なぜそうなるのか,順に見ていく。
① 風で進む速さが変わる → ② 届く時刻がずれる → ③ 時間のずれを位相のずれに直す → ④ 風を強くしていくとどうなるか,の順に見る。
音は空気に対しては速さ \(V\) で進む。その空気全体が速さ \(w_0\) で \(x\) の正の向きへ運ばれるので, 地面から見た速さは向きによって変わる。
O(左)から D へ向かう音は風に乗るので \(V+w_0\),O′(右)から D へ向かう音は風に逆らうので \(V-w_0\)。
どちらも距離 \(L\) を進むので,
\(T_1=\dfrac{L}{V+w_0}\),\(\quad T_2=\dfrac{L}{V-w_0}\) (\(T_1 < T_2\))
2 つの音源は同時に(同位相で)音を出しているので,届く時刻の差がそのままずれになる。
風が無ければ(\(w_0=0\))\(\Delta T=0\) で,2 つの音は同時に届く。 風を強くするほど \(\Delta T\) は大きくなる(分子の \(w_0\) が効く)。
音の波は \(\dfrac1f\) ごとに同じ形にもどる。つまり 1 周期おくれると位相は \(2\pi\) ずれるから, \(\Delta T\) だけおくれたときの位相のずれは
\(\Delta\phi=2\pi f\,\Delta T=\dfrac{4\pi fLw_0}{V^2-w_0^2}\)
同じ振幅 \(A\) の 2 つの正弦波が位相差 \(\Delta\phi\) で重なったときの合成波の振幅は
\(2A\left|\cos\dfrac{\Delta\phi}{2}\right|\)
\(\Delta\phi=0\) なら \(2A\)(強め合い),\(\Delta\phi=\pi\) なら 0(打ち消し合い)。
\(\Delta\phi\) は \(w_0\) とともに 0 から増えていくので,初めて振幅が最小(0)になるのは \(\Delta\phi=\pi\) のとき。
さらに風を強くして \(\Delta\phi=2\pi\)(ずれが 1 周期)になると,山と山がまた重なって強め合いにもどる。 風速を上げていくと,強め合いと打ち消し合いが交互にあらわれる。
「2 つの音源からの距離が等しいから,いつでも強め合う」は間違い。 強め合うかどうかを決めるのは距離そのものではなく届く時刻(位相)のずれで, 風があると,距離が同じでも進む速さがちがうので時刻がずれる。 教科書のふつうの干渉(経路差で決まる)は,どの向きにも波の速さが同じときの話。
風に乗る音は \(V+w_0\),逆らう音は \(V-w_0\)。同じ距離 \(L\) でも時間がちがう。
\(\Delta\phi=2\pi f\,\Delta T\)。\(\Delta T=\dfrac{1}{2f}\)(半周期)で打ち消し合う。
風があると,波長も向きによって変わる。風下向きに進む波の波長は \(\lambda_1=\dfrac{V+w_0}{f}\), 風上向きは \(\lambda_2=\dfrac{V-w_0}{f}\)。O から D までに入る波の数と,O′ から D までに入る波の数は
\(\dfrac{L}{\lambda_1}=\dfrac{fL}{V+w_0}\),\(\quad\dfrac{L}{\lambda_2}=\dfrac{fL}{V-w_0}\)
その差が ちょうど \(\dfrac12\) 個になったとき(山と谷が入れかわるとき)に打ち消し合う。 \(2\pi\) をかければ \(\Delta\phi\) にもどるので,上と同じ式になる。 「半波長ぶん行程がずれると打ち消し合う」の,風の場合の言い方と思えばよい。
風速を \(w_0\) のままにして,聞く場所を D から \(x\) の正の向きへ \(s\) だけ動かす。 O からの行程は \(L+s\),O′ からの行程は \(L-s\) になるので,位相差は
\(\Delta\phi(s)=2\pi f\Bigl[\dfrac{L-s}{V-w_0}-\dfrac{L+s}{V+w_0}\Bigr]=\pi-\dfrac{4\pi fVs}{V^2-w_0^2}\)
D では \(\pi\)(打ち消し合い)だったものが,動かすほど小さくなる。初めて \(\Delta\phi=0\)(強め合い)になるのは
\(d=\dfrac{V^2-w_0^2}{4fV}\fallingdotseq\dfrac{\lambda}{4}\) (\(w_0\ll V\) のとき,\(\lambda=\dfrac Vf\))
打ち消し合う所から波長の 4 分の 1 ほど動けば,もう強め合う。音が消える場所は意外とせまい。
作った式は風を止めて確かめるのが速い。\(w_0=0\) を入れると \(\Delta T=0\)・\(\Delta\phi=0\) で, 中点はいつでも強め合い(振幅 \(2A\))。\(L=\dfrac{V^2-w_0^2}{4fw_0}\) は \(w_0\to0\) で無限大に発散する—— 風が無ければ「中点で打ち消し合う」ことは起こらない,という意味になる。
波の速さがどの向きにも同じなら,位相差は \(\Delta\phi=\dfrac{2\pi}{\lambda}\times(\text{経路差})\)。 経路が同じなら位相差は 0 で,必ず強め合う。
速さが向きによって変わるので,経路差が 0 でも時間差が残る。 \(\Delta\phi=2\pi f\,\Delta T\) と,時間で考えるほうが確実。
うなりは \(f_1\ne f_2\) のときに,強め合いと打ち消し合いが時間とともにくり返される現象。 ここでの話は,振動数は同じまま場所と風速で決まる干渉で,別のしくみ。