物理 > 動く解説 > 物理 第5編 原子|第2章 原子と原子核

核反応の質量とエネルギー

❓ 1. 疑問と結論

重水素の原子核 2 個がくっついて,ヘリウム 3 の原子核と中性子ができる。陽子と中性子の数は,反応の前も後も 2 個ずつで変わらない。 では,反応の前と後で,質量の和も同じだろうか。

反応の式は,

\({}^{2}_{1}\mathrm{H} + {}^{2}_{1}\mathrm{H} \to {}^{3}_{2}\mathrm{He} + {}^{1}_{0}\mathrm{n}\)

  • 反応前:重水素 2 個(陽子 1・中性子 1 が 2 組)
  • 反応後:ヘリウム 3(陽子 2・中性子 1。図では X)と中性子 1 個

陽子 2 個・中性子 2 個は,前も後も同じ。質量の和はどうなるか。

🎯 結論:質量の和はわずかに減り,そのぶんのエネルギーが出る

\(E = \Delta m\,c^2\)

反応のあとのほうが,質量の和はわずかに小さい。減った質量 \(\Delta m\) のぶん,エネルギー \(E = \Delta m\,c^2\) が出てくる(\(c\) は光の速さ)。

💡
核反応……原子核どうしがぶつかって,別の原子核ができる反応。核融合……軽い原子核どうしが結びついて,重い原子核ができる核反応(ここでは重水素 2 個からヘリウム 3)

本当に減っているのか。まず,質量の帯の右の端を拡大して見る。

📚 2. 解説と確かめ

減った質量(解説①),質量とエネルギー(解説②),エネルギーの計算(解説③)の順に見る。最後に,電子ボルトで確かめる。

🔍 解説①:右の端を拡大すると,反応後のほうが短い

  1. 与えられた質量

    重水素の原子核 \(m_\mathrm{D} = 2.0136\) u,ヘリウム 3 の原子核 \(m_\mathrm{X} = 3.0149\) u,中性子 \(m_\mathrm{n} = 1.0087\) u(u は原子の質量の単位)。

  2. 前と後の和

    \(2m_\mathrm{D} = 2\times2.0136 = 4.0272\ \mathrm{u}\)

    \(m_\mathrm{X} + m_\mathrm{n} = 3.0149 + 1.0087 = 4.0236\ \mathrm{u}\)

  3. 減った質量 \(\Delta m\)

    \(\Delta m = 4.0272 - 4.0236 = 0.0036\ \mathrm{u}\)

    同じ縮尺の帯では,右の端がそろって見えるほどのわずかな差(反応前の約 1000 分の 1)。

⚡ 解説②:質量はエネルギーの 1 つの形

  1. 質量とエネルギーの関係

    質量 \(m\) は,エネルギー \(mc^2\) にあたる(\(c\) は光の速さ)。

    \(E = mc^2\)

  2. 減ったぶんが外へ出る

    反応で質量が \(\Delta m\) 減ると,そのぶんのエネルギー \(\Delta m\,c^2\) が外へ出ていく。質量が消えたのではなく,エネルギーとして出ていったぶん減っている。

    \(E = \Delta m\,c^2\)

🧮 解説③:u を kg に直してから \(c^2\) をかける

  1. u を kg に直す

    \(1\ \mathrm{u} = 1.7\times10^{-27}\) kg なので,

    \(\Delta m = 0.0036\times1.7\times10^{-27}\ \mathrm{kg}\)

  2. \(c^2\) をかける

    \(c = 3.0\times10^{8}\) m/s を入れ,数の部分と 10 の累乗を分けて計算する。

    \(E = 0.0036\times1.7\times10^{-27}\times(3.0\times10^{8})^2\)

    \(= (0.0036\times1.7\times9.0)\times10^{-27+16} = 5.508\times10^{-13}\ \mathrm{J}\)

\(E \fallingdotseq 5.5\times10^{-13}\ \mathrm{J}\)
⚠️ 注意

u のまま \(c^2\) をかけると,\(0.0036\times(3.0\times10^{8})^2 \fallingdotseq 3.2\times10^{14}\) となり,けたがまったく合わない。\(c^2\) をかけて J にするには,質量を kg で入れる。

✅ 確かめ:電子ボルトにすると

  1. J から eV へ

    電気素量 \(e = 1.6\times10^{-19}\) C で割ると,

    \(\dfrac{5.508\times10^{-13}}{1.6\times10^{-19}} \fallingdotseq 3.4\times10^{6}\ \mathrm{eV} = 3.4\ \mathrm{MeV}\)

  2. 1 u ≒ 931 MeV から

    \(1\ \mathrm{u}\) の質量は,およそ 931 MeV のエネルギーにあたる。\(0.0036\times931 \fallingdotseq 3.4\) MeV で,上と合う。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

🔥 燃える反応とくらべると

炭素が燃える反応(\(\mathrm{C} + \mathrm{O_2} \to \mathrm{CO_2}\))で出る熱は,1 mol あたり約 394 kJ。反応 1 回あたりにすると,

\(\dfrac{394\times10^{3}}{6.0\times10^{23}} \fallingdotseq 6.6\times10^{-19}\ \mathrm{J}\)

重水素 2 個の反応 1 回の \(5.5\times10^{-13}\) J は,そのおよそ 100 万倍(約 \(8\times10^{5}\) 倍)。燃える反応でも質量はわずかに減るが,小さすぎてはかれない。

🏃 出たエネルギーはどこへ行くか

出てきたエネルギーは,おもにヘリウム 3 と中性子の運動エネルギーになる。

  • 反応の前の運動量の和がほぼ 0 なら,2 つの運動量は大きさが等しく逆向き
  • 運動エネルギー \(K = \dfrac{p^2}{2m}\) は質量に反比例するので,軽い中性子がおよそ \(\dfrac{3}{4}\) をもっていく(\(K_\mathrm{n} : K_\mathrm{X} \fallingdotseq 3 : 1\))
💡 もう一歩:なぜ質量が減るのか

陽子と中性子(核子)は,強く結びついた原子核になるほど,ばらばらのときより質量が小さくなる。重水素 2 個よりヘリウム 3 のほうが核子どうしが強く結びついているので,反応のあとの質量の和が小さくなり,その差のぶんがエネルギーとして外へ出る。原子核がばらばらのときとくらべた質量の差を質量欠損といい,結びつきの強さ(結合エネルギー)を表す。