物理 > 動く解説 > 物理 第5編 原子|第2章 原子と原子核

陽電子と電子の対消滅

❓ 1. 疑問と結論

陽電子(電子と同じ質量で,電気がプラスの粒子)と電子が出会うと,2 つとも消えて \(\gamma\) 線が出る。ふつうは \(\gamma\) 線が 2 本出る。

2 本の \(\gamma\) 線は,好きな向きにばらばらに出るのだろうか。それとも,ちょうど反対の向きに出るのだろうか。

🎯 結論:ちょうど反対の向きに,0.51 MeV ずつ

真反対の向き・同じエネルギー \(\ mc^2 = 0.51\ \text{MeV}\) ずつ

2 本はちょうど反対の向きに出て,エネルギーも同じ。\(m\) は電子(陽電子)の質量,\(c\) は光の速さ。2 本がそろう向き(上下か,左右か…)はどの向きでもよいが,2 本はいつも真反対になる。

💡
対消滅……粒子とその反粒子(電子と陽電子)が出会って消え,消えた質量に相当するエネルギーの光(\(\gamma\) 線)になること

なぜ真反対で,なぜ同じエネルギーなのか。運動量の保存から順に見る。

📚 2. 解説

運動量の和(解説①),矢印をつなぐ(解説②),運動量とエネルギー(解説③),0.51 MeV のわけ(解説④)の順に見る。

🎯 解説①:運動量の和は 0

  1. 消える前

    電子と陽電子はとてもゆっくり(運動エネルギーは無視できる)なので,消える前の運動量の和は 0 とみなせる。

  2. 光子も運動量をもつ

    \(\gamma\) 線は波長のとても短い電磁波で,光子 1 個は運動量をもつ。向きは \(\gamma\) 線の進む向き。

  3. 運動量は保存される

    消える前と後で運動量の和は変わらないので,2 本の \(\gamma\) 線の運動量の和も 0。

📐 解説②:矢印をつなぐと,はじめの点に戻る

  1. 和が 0 = 戻ってくる

    2 本の運動量の矢印を,1 本目の先に 2 本目の根元をつなぐ。和が 0 なら,2 本目の先ははじめの点に戻る。

  2. 戻るのは真反対・同じ長さのときだけ

    向きが少しでもずれたり,長さがちがったりすると,はじめの点には戻らない。だから 2 本はちょうど反対の向きで,同じ大きさ。

▶ 再生で,矢印をつないだり戻したりする。

🌊 解説③:運動量が同じなら,エネルギーも同じ

  1. 光子の運動量

    \(p = \dfrac{h}{\lambda}\)

    \(h\) はプランク定数,\(\lambda\) は波長。

  2. 波長を振動数で書きかえる

    波の基本式 \(c = \nu\lambda\) より \(\lambda = \dfrac{c}{\nu}\)。代入すると,

    \(p = \dfrac{h\nu}{c}\)

  3. エネルギーで書く

    光子のエネルギーは \(E = h\nu\) なので,

    \(p = \dfrac{E}{c}\)

    運動量はエネルギーに比例する。2 本の運動量の大きさが同じなので,エネルギーも同じ。

⚡ 解説④:1 本は \(mc^2 = 0.51\) MeV

  1. 消えた質量のエネルギー

    質量 \(m\) に相当するエネルギーは \(E = mc^2\)。消えたのは電子と陽電子で,質量は \(2m\)。

    \(2mc^2 = 1.02\ \text{MeV}\)

  2. 半分ずつ

    2 本のエネルギーは同じなので,1 本は半分。

    \(mc^2 = 0.51\ \text{MeV}\)

    電子 1 個の質量のエネルギーと同じ。何本に分かれても,和は 1.02 MeV のまま。

⚠️ つまずき

「\(\gamma\) 線は好きな向きにばらばらに出る」と考える。運動量の和が 0 のままなので,2 本なら必ず真反対に同じ大きさ。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

🔺 3 本出るときも,矢印は閉じる

まれに \(\gamma\) 線が 3 本出る。\(\gamma_1\) が \(x\) 軸の負の向き,\(\gamma_2\) が \(y\) 軸の負の向き,\(\gamma_3\) が \(x\) 軸と 45° の向きに出たとき,運動量の大きさを \(p_1\),\(p_2\),\(p_3\) とする。

  1. 成分ごとに和が 0

    \(x\):\(0 = p_3\cos45^\circ - p_1\)

    \(y\):\(0 = p_3\sin45^\circ - p_2\)

  2. 比は \(1 : 1 : \sqrt{2}\)

    \(p_1 = p_2 = \dfrac{p_3}{\sqrt{2}}\)

    3 本の矢印をつなぐと,閉じた直角二等辺三角形になる。エネルギーも運動量に比例するので,\(E_1 : E_2 : E_3 = 1 : 1 : \sqrt{2}\)。

📊 3 本のエネルギーの分け方

和は 2 本のときと同じ 1.02 MeV。\(E_2 = E_1\),\(E_3 = \sqrt{2}\,E_1\) なので,

\(E_1 + E_1 + \sqrt{2}\,E_1 = 1.02\ \text{MeV}\)

\(E_1 = \dfrac{1.02}{2 + \sqrt{2}} \fallingdotseq 0.30\ \text{MeV}\)

\(E_3\) は約 0.42 MeV。3 等分(0.34 MeV ずつ)ではない。

🚫 1 本だけでは出ない

\(\gamma\) 線が 1 本だけだと,その運動量 \(p = \dfrac{E}{c}\) は 0 ではないので,運動量の和が 0 にならない。止まった電子と陽電子が消えるとき,\(\gamma\) 線は2 本以上出る。

Point

消える前の運動量の和が 0 なら,出てくる \(\gamma\) 線の運動量の矢印をつなぐと,はじめの点に戻る。2 本なら真反対・同じ大きさ,3 本なら閉じた三角形。