物理 > 動く解説 > 物理 第5編 原子|第2章 原子と原子核
止まっている陽子に,中性子が速さ \(v_0\) で弾性衝突する。2 つの質量はほぼ同じ \(m\)。衝突のあと,2 つは入射の向きと 45° ずつの向きに分かれた。
中性子の運動エネルギーは,衝突前の \(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\) 倍だろうか,それとも \(\dfrac{1}{2}\) 倍だろうか。
速さは \(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\) 倍で,運動エネルギーは \(\dfrac{1}{2}\) 倍(\(K_0\) は衝突前の中性子の運動エネルギー,\(K\) は衝突後)。速さの比と運動エネルギーの比はちがう。
なぜ速さが \(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\) 倍になり,運動エネルギーは \(\dfrac{1}{2}\) 倍になるのか。運動量の保存から順に見る。
2 つの速さ(解説①),運動量の三角形(解説②),運動エネルギーの比(解説③)の順に見る。
中性子は上へ 45°,陽子は下へ 45°。入射の向きについて上下対称に分かれている。
衝突前は,入射に垂直な向きの運動量は 0。衝突のあとも 0 のままなので,上向きと下向きの運動量の大きさは同じ。
\(mv_{\text{中}}\sin45^\circ = mv_{\text{陽}}\sin45^\circ\)
質量が同じなので,2 つの速さも同じ。これを \(v\) とする。
衝突前の運動量 \(mv_0\) の矢印は,衝突後の 2 本の \(mv\) の矢印をつないだものに等しい。
2 本の \(mv\) は 45° ずつ傾いているので,直角に交わる。3 本の矢印は,\(mv_0\) を斜辺とする直角二等辺三角形になる。
\(mv = \dfrac{mv_0}{\sqrt{2}}\)
\(v = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}\)
入射の向きの成分で書いても同じ:\(mv_0 = mv\cos45^\circ + mv\cos45^\circ = \sqrt{2}\,mv\)。
\(K = \dfrac{1}{2}mv^2\)
運動エネルギーは速さの 2 乗に比例する。衝突前は \(K_0 = \dfrac{1}{2}mv_0{}^2\)。
\(\dfrac{K}{K_0} = \left(\dfrac{v}{v_0}\right)^2 = \left(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)^2 = \dfrac{1}{2}\)
速さが \(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\) 倍なら,運動エネルギーは \(\dfrac{1}{2}\) 倍。上の図の棒の「衝突後」の中性子が,衝突前の半分になっている。
速さの比 \(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\) を,そのまま運動エネルギーの比と答える。運動エネルギーは速さの 2 乗に比例するので,\(\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)^2 = \dfrac{1}{2}\)。
陽子も同じ速さ \(v\) なので,陽子の運動エネルギーも \(\dfrac{1}{2}K_0\)。衝突後の和は
\(\dfrac{1}{2}K_0 + \dfrac{1}{2}K_0 = K_0\)
で,衝突前と同じ。弾性衝突(運動エネルギーの和が変わらない)と合う。中性子が失った半分は,陽子がもらっている。
45° ずつに分かれると,\(mv_0\)・\(mv\)・\(mv\) は直角二等辺三角形。だから \(v = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}\)。
\(K = \dfrac{1}{2}mv^2\) なので,速さが \(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\) 倍なら \(K = \dfrac{1}{2}K_0\)。残りの半分は陽子へ。
原子炉では,核分裂で出た速い中性子(3.0 MeV ほど)を,0.030 eV ほどの遅い中性子(熱中性子)まで遅くする。1 回の衝突で運動エネルギーが \(\dfrac{1}{2}\) 倍なら,\(N\) 回で \(\left(\dfrac{1}{2}\right)^N\) 倍。
\(\dfrac{0.030}{3.0\times10^{6}} = 1.0\times10^{-8}\)
\(\left(\dfrac{1}{2}\right)^N \leqq 1.0\times10^{-8}\)
両辺の逆数をとって常用対数をとると(\(\log_{10}2 = 0.30\)),
\(N \geqq \dfrac{8}{0.30} = 26.6\cdots\)
回数は整数なので,27 回。26 回ではまだ約 0.045 eV で,27 回目で約 0.022 eV になり,はじめて下まわる。
中性子を遅くする物質(減速材)には,水がよく使われる。水には水素の原子核,つまり中性子とほぼ同じ質量の陽子がたくさんある。同じ質量の相手に当たると,中性子は 1 回で運動エネルギーを大きく失う(この例では半分)。重い原子核に当たると,中性子ははね返されるだけで,運動エネルギーはあまり減らない。
斜めに分かれる衝突は,運動量の矢印をつないで三角形にすると速さが決まる。運動エネルギーはその速さの 2 乗で決まる。