物理 > 動く解説 > 物理 第5編 原子|第1章 電子と光

電子と重力:着く時間は遅れる?

❓ 1. 疑問と結論

左向きの電場の中で,電子(電気量 \(-e\),質量 \(m\))は右向きの力 \(eE\) を受け,極板 \(\mathrm{A}\) の点 \(\mathrm{O}\) から極板 \(\mathrm{B}\) へ進む。電子には下向きの重力 \(mg\) もはたらく。下へ引かれるぶん,\(\mathrm{B}\) に着くのは遅れるだろうか。

🎯 結論:着くまでの時間は変わらない

\(t = \sqrt{\dfrac{2mL}{eE}}\)

重力が変えるのは,着く位置だけ(下へずれる)。着く時刻は変わらない。

なぜ重力で遅れないのか。力を水平と鉛直に分けて考える。

📚 2. 解説と確かめ

水平の動き(解説①),鉛直の動き(解説②)の順に見る。2 つの向きは別々に考えてよく,同じ時間を共有する。

➡️ 解説①:水平は電場の力だけ

  1. 水平の力は \(eE\) だけ

    電子は負の電荷なので,電場(左向き)と逆の右向きに,大きさ \(eE\) の力を受ける。重力 \(mg\) は鉛直なので,水平の動きには関係しない。

  2. 水平の運動方程式

    \(ma = eE \qquad a = \dfrac{eE}{m}\)

    加速度は一定。図の赤い目盛り(同じ時間ごとの位置)は,間隔が開いていく。

  3. 静止から \(L\) 進む時間

    \(L = \dfrac{1}{2}at^2 = \dfrac{1}{2}\cdot\dfrac{eE}{m}\,t^2\)

    この式に重力加速度 \(g\) は入らない。だから 着くまでの時間は重力によらない。

⬇️ 解説②:鉛直は重力だけ(時間は共有)

  1. 鉛直は自由落下

    鉛直にはたらく力は重力 \(mg\) だけ(電場の力は水平)。はじめは静止しているので,鉛直には自由落下と同じように落ちる。

  2. 同じ時刻には同じ横の位置

    重力がない電子(図の薄い丸)とくらべると,同じ時刻にはいつも同じ横の位置にいる。ずれるのは縦の位置だけ。

  3. 同じ \(t\) で \(\mathrm{PQ}\)

    同じ時刻に \(\mathrm{B}\) に着き,着く点が \(\mathrm{P}\) から \(\mathrm{Q}\) へ下がる。下がる距離には,水平と同じ時間 \(t\) を使う。

    \(\mathrm{PQ} = \dfrac{1}{2}gt^2\)

✅ 確かめ:時間を出して \(\mathrm{PQ}\) に入れる

  1. 水平の式から \(t\)

    \(t^2 = \dfrac{2mL}{eE} \qquad t = \sqrt{\dfrac{2mL}{eE}}\)

  2. 同じ \(t\) を鉛直の式へ

    \(\mathrm{PQ} = \dfrac{1}{2}g \times \dfrac{2mL}{eE} = \dfrac{mgL}{eE}\)

    水平で決まった時間を,鉛直の式に入れるだけで,ずれ \(\mathrm{PQ}\) が出る。

⚠️ つまずき

「重力で下へ引かれるぶん,着くのが遅れる」は誤り。重力は鉛直なので,水平の加速度 \(\dfrac{eE}{m}\) を変えない。時間は重力がないときと同じ。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

🔬 ほんとうの重力の効果は,とても小さい

図では重力の効果を大きく描いている。ほんとうの値を入れると(\(m = 9.1\times10^{-31}\) kg,\(e = 1.6\times10^{-19}\) C,\(L = 1.0\) m,\(E = 1.0\) V/m,\(g = 9.8\) m/s²),

\(\mathrm{PQ} = \dfrac{mgL}{eE} \fallingdotseq 5.6\times10^{-11}\ \mathrm{m}\)

\(L\) のわずか \(5.6\times10^{-11}\) 倍。電子の運動では,ふつう重力を無視してよい。

📐 軌道は O から Q への直線

水平 \(x = \dfrac{1}{2}\cdot\dfrac{eE}{m}\,t^2\) と鉛直 \(y = -\dfrac{1}{2}gt^2\) は,どちらも \(t^2\) に比例する。2 つをわると \(t^2\) が消えて,

\(y = -\dfrac{mg}{eE}\,x\)

静止から一定の力(\(eE\) と \(mg\) の合力)を受けるので,電子は合力の向きにまっすぐ進む。