物理 > 動く解説 > 物理 第2編 熱と気体|第1章 気体のエネルギーと状態変化

仕切りで分けた気体:熱 Q はどこへ?

❓ 1. 疑問と結論

断熱材でできたシリンダーを,なめらかに動く仕切りで A 室と B 室に分ける。ヒーターで A 室だけを温めると,仕切りが右へ動き,熱の入らない B 室の気体も温度が上がる。では,ヒーターの熱 \(Q\) は,どこへ行ったのだろうか。

🎯 結論:\(Q\) は全部,2 室の内部エネルギーの増加になる

\(Q = \Delta U_\mathrm{A} + \Delta U_\mathrm{B}\)

仕切りを押す仕事 \(W\) は,A 室では「した仕事」,B 室では「された仕事」として入り,全体で見ると消える。だから,ヒーターの熱 \(Q\) は 2 室の内部エネルギーの増加の和になる。

💡
熱力学第 1 法則……気体の内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) は,受け取った熱量 \(Q_\mathrm{in}\) と,された仕事 \(W_\mathrm{in}\) の和:\(\Delta U = Q_\mathrm{in} + W_\mathrm{in}\)

なぜ \(W\) が消えるのか。室ごとに第 1 法則を書いてから,足してみる。

📚 2. 解説と確かめ

A 室(解説①),B 室(解説②),2 室を足す(解説③)の順に見る。\(W\) は,A 室の気体が仕切りを押して B 室の気体にした仕事とする。

🔥 解説①②:室ごとに第 1 法則

  1. A 室:熱をもらい,仕事をする

    ヒーターから熱 \(Q\) を受け取る(\(Q_\mathrm{in} = Q\))。仕切りを押して B 室に仕事 \(W\) をするので,された仕事は \(W_\mathrm{in} = -W\)。

    \(\Delta U_\mathrm{A} = Q - W\)

  2. B 室:仕事をされるだけ

    断熱材と仕切りにかこまれて,熱は入らない(\(Q_\mathrm{in} = 0\))。A 室から仕事 \(W\) をされる(\(W_\mathrm{in} = W\))。

    \(\Delta U_\mathrm{B} = W\)

  3. 熱が入らなくても,温度が上がる

    B 室は,仕事をされたぶん内部エネルギーが増え,温度が上がる(断熱圧縮)。断熱材が止めるのは熱だけで,エネルギーは仕事として仕切りを通って運ばれる。

🧮 解説③:2 室を足すと,\(W\) が消える

  1. 2 つの式を足す

    \(\Delta U_\mathrm{A} + \Delta U_\mathrm{B} = Q - W + W\)

    \(-W\) と \(+W\) が打ち消し合う。

  2. 全体で見ると中のやりとり

    仕切りを押す仕事は,シリンダーの中で A 室から B 室へエネルギーを渡しているだけ。シリンダー全体の外へは仕事をしない。

    \(Q = \Delta U_\mathrm{A} + \Delta U_\mathrm{B}\)

🔍 確かめ:シリンダー全体を 1 つの気体とみる

  1. 全体の第 1 法則

    2 室の気体をまとめて 1 つの系とみる。外から受け取る熱は \(Q\)。シリンダーの両端は動かないので,外からされる仕事は 0。

    \(\Delta U_\mathrm{A} + \Delta U_\mathrm{B} = Q + 0\)

  2. 室ごとに足した結果と同じ

    解説③と同じ式になる。仕切りの仕事は系の中のやりとりなので,全体の式には出てこない。

⚠️ つまずき

「ヒーターは A 室だけを温めるので \(Q = \Delta U_\mathrm{A}\)」とすると,仕切りを押した仕事 \(W\) のぶんを落とす。A 室の式は \(\Delta U_\mathrm{A} = Q - W\)。「熱が入らない B 室は温度が変わらない」も誤り(仕事をされて温度が上がる)。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

🌡️ 温度だけで \(Q\) が出る

どちらの室も単原子分子理想気体 1 mol なら,\(\Delta U = \dfrac{3}{2}R\Delta T\)。はじめの温度を \(T_0\),あとの温度を \(T_1\)(A 室),\(T_2\)(B 室)とすると,

\(Q = \dfrac{3}{2}R(T_1 - T_0) + \dfrac{3}{2}R(T_2 - T_0)\)

仕切りの仕事 \(W\) を求めなくても,2 室の温度の変化から \(Q\) が決まる。

📈 仕事 \(W\) の大きさ

\(W\) は,B 室の気体が押し縮められた仕事で,B 室の \(p\)–\(V\) 図で道すじの下の面積になる。B 室は熱の出入りがないので,道すじは断熱線(等温線より急)。

面積を計算しなくても,B 室の第 1 法則から \(W = \Delta U_\mathrm{B} = \dfrac{3}{2}R(T_2 - T_0)\) と求まる。