物理 > 動く解説 > 物理 第5編 原子|第2章 原子と原子核

分裂の運動エネルギー

❓ 1. 疑問と結論

止まっている原子核が α 粒子を出して,2 つに分かれる。重い原子核 X と軽い α 粒子,運動エネルギーを多くもらうのはどちらだろうか。

🎯 結論:運動エネルギーは質量に反比例する

\(K_\mathrm{X} : K_\alpha = m_\alpha : m_\mathrm{X}\)

軽い α 粒子が,運動エネルギーのほとんどをもっていく。

💡
分裂……1 つの物体が,内力(ここでは原子核の中の力)だけで 2 つ以上に分かれること。外から力がはたらかないので,運動量の和は変わらない

なぜ質量の逆の比になるのか。運動量から順に見る。

📚 2. 解説と確かめ

運動量(解説①),運動エネルギー(解説②),比(解説③)の順に見る。最後に,速さを使って確かめる。

➡️ 解説①:運動量は,大きさが等しく逆向き

  1. はじめの運動量は 0

    原子核は止まっているので,運動量の和は 0。分かれるときにはたらくのは内力だけなので,分かれたあとも和は 0 のまま。

  2. 右向きを正にして立式

    X の質量を \(m_\mathrm{X}\)・速さを \(v_\mathrm{X}\)(左向き),α 粒子の質量を \(m_\alpha\)・速さを \(v_\alpha\)(右向き)とする。

    \(0 = m_\mathrm{X}(-v_\mathrm{X}) + m_\alpha v_\alpha\)

    \(m_\mathrm{X}v_\mathrm{X} = m_\alpha v_\alpha\)

  3. 共通の大きさを \(p\) とする

    2 つの運動量は大きさが等しく逆向き。この大きさを \(p\) とする。重い X はゆっくり,軽い α 粒子は速い。

⚡ 解説②:運動エネルギーを \(p\) で表す

  1. \(v\) に \(\dfrac{p}{m}\) を入れる

    \(p = mv\) より \(v = \dfrac{p}{m}\)。これを \(K = \dfrac{1}{2}mv^2\) に入れる。

    \(K = \dfrac{1}{2}m\left(\dfrac{p}{m}\right)^2 = \dfrac{p^2}{2m}\)

  2. 同じ \(p\) なら,軽いほど大きい

    \(p\) は 2 つで同じなので,質量 \(m\) が小さいほど \(K\) が大きい。

\(K = \dfrac{p^2}{2m}\)

⚖️ 解説③:比をとると \(p\) が消える

  1. 2 つの式の比

    \(K_\mathrm{X} : K_\alpha = \dfrac{p^2}{2m_\mathrm{X}} : \dfrac{p^2}{2m_\alpha} = \dfrac{1}{m_\mathrm{X}} : \dfrac{1}{m_\alpha}\)

    \(K_\mathrm{X} : K_\alpha = m_\alpha : m_\mathrm{X}\)

  2. ポロニウムの例

    \({}^{210}_{84}\mathrm{Po}\) の α 崩壊では,質量の比は質量数の比 \(m_\alpha : m_\mathrm{X} = 4 : 206\)。X がもらうのは α 粒子の \(\dfrac{4}{206}\),約 2% だけ。

⚠️ 注意

運動量は等しく分かれるが,運動エネルギーは等しく分かれない。「半分ずつ」とすると間違える。

🧮 確かめ:速さから計算しても同じ

  1. 速さの比

    \(m_\mathrm{X}v_\mathrm{X} = m_\alpha v_\alpha\) より \(\dfrac{v_\mathrm{X}}{v_\alpha} = \dfrac{m_\alpha}{m_\mathrm{X}}\)。

  2. \(K = \dfrac{1}{2}mv^2\) の比

    \(\dfrac{K_\mathrm{X}}{K_\alpha} = \dfrac{m_\mathrm{X}}{m_\alpha}\left(\dfrac{v_\mathrm{X}}{v_\alpha}\right)^2 = \dfrac{m_\mathrm{X}}{m_\alpha}\left(\dfrac{m_\alpha}{m_\mathrm{X}}\right)^2 = \dfrac{m_\alpha}{m_\mathrm{X}}\)

    解説③と同じ比になる。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

☢️ X は何か:崩壊の式で数をそろえる

α 崩壊の前後で,質量数の和と原子番号の和はそれぞれ変わらない。α 粒子は \({}^{4}_{2}\mathrm{He}\) なので,

\({}^{210}_{84}\mathrm{Po} \to {}^{206}_{82}\mathrm{Pb} + {}^{4}_{2}\mathrm{He}\)

X は鉛 Pb。質量の比 \(4 : 206\) は,この質量数から出した。

🎆 力学でも同じ:大砲・花火

止まっていた大砲が弾を撃つと,大砲は後ろへ動く(反動)。運動量は等しく逆向きなので,運動エネルギーは質量に反比例し,軽い弾がほとんどをもっていく。重い大砲がゆっくりしか下がらないのはこのため。

💡 もう一歩:3 つ以上に分かれると

2 つに分かれるときは,運動量の式だけで 2 つの速さの比が決まった。3 つ以上に分かれると,運動量の式(向きごとに 1 本)だけでは足りず,分け方は 1 つに決まらない。β 崩壊で電子のエネルギーがばらつくのは,目に見えない 3 つ目の粒子(ニュートリノ)があるからだと考えられた。