物理 > 動く解説 > 物理 第2編 熱と気体|第1章 気体のエネルギーと状態変化

名工大:沈めた体積

❓ 1. 疑問と結論

底をうえにしたシリンダー(質量 \(m\)・断面積 \(S\),壁はうすい)を,密度 \(\rho\) の液体に浮かべる。中には気体が閉じこめられていて,気体の下側は液体に接している。 このシリンダーを棒でゆっくり押して,上面まで液面の下に沈める。このとき,棒がシリンダーを押さえる力は,何で決まるだろうか。

🎯 結論:棒の力は,液面より下にある気体の体積で決まる

\[ F = \rho Shg - mg \]

\(Sh\) は液面より下にある気体の体積。浮力 \(\rho Shg\) は,どれだけ深く沈めたかではなく,この体積だけで決まる。 温度を一定にしたまま棒を上げると,気体がふくらんで \(Sh\) がふえるので,押し返す力 \(F\) は強くなる。

📚 2. 解説

① 浮いているとき(浮力とは) → ② 押し沈める → ③ 浮力の正体(上面を押す力の差) → ④ 棒を上げると,の順に見る。

① 浮いているとき —— 浮力とは

  1. 液体を押しのけているのは中の気体だけ

    シリンダーの壁はうすいので,液体を押しのけているのは,液面より下にある気体の部分(図の青い所)だけ。

  2. 浮力

    押しのけた液体の重さと同じ大きさの,上向きの力がはたらく。これを浮力という。押しのけた体積を \(V\) とすると \(\rho Vg\)。

  3. 浮いて止まっているとき

    浮力とシリンダーの重力がつり合う:\(\rho Vg = mg\)。

② 押し沈める —— \(F = \rho Shg - mg\)

③ 浮力の正体 —— 上面を押す力の差

  1. 上面を押す 2 つの力

    上面は,中の気体が押し上げ,外の液体が押し下げる(側壁の厚さは考えない)。

  2. 気体の圧力=深さ \(d\) の液体の圧力

    気体の下側の面は深さ \(d\) の液体に接していて,その面は止まっている。だから気体の圧力は \(p_0 + \rho gd\)(\(p_0\) は大気圧)。

  3. 上面の外側は深さ \(d-h\)

    上面を押す液体の圧力は \(p_0 + \rho g(d-h)\)。差は \(\rho gh\)。面積 \(S\) をかけると \(\rho ghS = \rho Shg\)=浮力。

  4. 言い換えると

    浮力を決めるのは,沈めた深さではなく,液面より下にある気体の体積。深さが変わって力が変わるのは,そのぶん気体の体積が変わるから。

④ 棒を上げると —— 押し返す力が強くなる

  1. 気体の圧力が下がる

    温度を一定にしたまま棒をゆっくり上げると,シリンダーごと浅い所へ移り,気体の下側の面も浅くなる。気体の圧力 \(p_0 + \rho gd\) が下がる。

  2. 気体がふくらむ

    温度一定で圧力が下がるので,気体はふくらみ,\(h\) がふえる(点線は上げる前の気体の下側の面)。

  3. 浮力も \(F\) も大きくなる

    \(F = \rho Shg - mg\) の \(h\) がふえるので,棒を押し返す力が強くなる。

  4. まちがえやすい所

    気体の体積が変わらないとして,「力は変わらない」とすると誤り。上面だけでなく気体の下側の面も動き,気体の高さが変わる。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

🌊 上面が液面より上にあるとき

上面が液面より上に出ているあいだは,上面を外から押すのは大気(圧力 \(p_0\))。気体の圧力は \(p_0 + \rho gd\) なので,差は \(\rho gd\),力は \(\rho Sdg\)。 液面より下にある気体の高さは \(d\) だけなので,やはり「液面より下にある気体の体積 × \(\rho g\)」が浮力になる。浮いているときは \(\rho Sdg = mg\)。

⛰ いちばん大きな力がいるのは,上面が液面に来たとき

浮いた所から押していくと,はじめは液面より下の気体の高さ \(d\) がふえていくので,棒の力は大きくなる。上面が液面の下に入ると,液面より下にあるのは気体の全部(高さ \(h\))になり, そこから深くするほど気体が縮んで \(h\) が減るので,棒の力は小さくなっていく。だから,棒の力がいちばん大きいのは上面がちょうど液面に来たとき。 深く沈めるほど楽になる(手をはなすと,さらに沈んでいく)のは,このためで,ショートの「上げると押し返す力が強くなる」と同じことの裏返し。

📐 棒を少し上げたときの力の変化

気体の高さ \(h\)・圧力 \(p\) の状態から,温度を一定にしたまま棒を \(\Delta z\) だけ上げる。上面の深さ \(d-h\) が \(\Delta z\) 減るので \(\Delta d - \Delta h = -\Delta z\), 温度一定で \(p\Delta h + h\Delta p = 0\),気体の圧力は \(\Delta p = \rho g\Delta d\)。これを解くと

\[ \Delta h = \dfrac{\rho gh}{p + \rho gh}\,\Delta z ,\qquad \Delta F = \rho gS\,\Delta h = \dfrac{\rho^2 g^2 hS}{p + \rho gh}\,\Delta z \]

分数は 1 より小さいので,気体の高さは棒を上げた距離より少しだけふえる(気体の下側の面も \(\dfrac{p}{p+\rho gh}\Delta z\) だけ上がる)。もとの入試問題では,この形が問われた。

🔩 ピストンがあっても同じ

気体の下側を,質量の無視できるなめらかなピストンでふさいでも,ピストンのつり合いから気体の圧力は「ピストンの深さの液体の圧力」になる。 液体の面がそのままピストンに替わっただけで,浮力も棒の力もここでの式と同じ。