物理 > 動く解説 > 物理 第1編 力と運動|第3章 運動量の保存
水平から角 \(\phi\) の斜面にそって置いたばねで,質量 \(m\) の小球を打ち出す。台(質量 \(M\))は,なめらかな床の上を自由に動ける。 台を床に固定すれば,小球は斜面の向き(角 \(\phi\))に飛び出す。では,台が動けるときの打ち出しの向きはどうなるだろうか。
\(1 + \dfrac{m}{M} > 1\) なので \(\tan\phi' > \tan\phi\)。つまり \(\phi' > \phi\)(いつでも斜面の角より急)。 台が重い(\(M\) が大きい)ほど \(\phi'\) は \(\phi\) に近づく。
なぜ急になるのか。速度を水平と鉛直に分けて見ていく。
① 台が逆向きに動く(運動量の保存)→ ② 台から見ると斜面の向き → ③ 床から見ると水平だけが小さい,の順に見る。
カメラが台といっしょに動く(床の目盛りが流れる)。台は止まって見え,小球は斜面にそって進む。
台が左へ動いていくので,小球は斜面より急な線の上を進む。「台の上から見る」「床から見る」のボタンで切り替えられる。
小球が斜面にそって進む(緑)。同じあいだに台が左へ動いて,小球もいっしょに運ばれる(青)。
2 本を合わせた橙の矢印が床から見た動き。縦の長さは同じで,横だけが台の動きのぶん短い。だから向きは急になる。
この図の \(v_x\) は下の \(V_{2x}\),\(v_y\) は \(V_{2y}\),\(V\) は \(V_3\) と同じ量(下の図は問題の文字で書いてある)。
台と小球をひとまとめに見ると,外から受ける力は重力と垂直抗力で,どちらも鉛直。床はなめらかなので摩擦もない。
ばねが小球を押す力と,その反作用で台が押される力は,系の中ではたらく力(内力)。和は 0 で,全体の運動量を変えない。
はじめは止まっているので和は 0 のまま。小球が右へ \(V_{2x}\),台が左へ \(V_3\) で動くとして,
\(mV_{2x} = MV_3\)
小球は斜面にそってすべるので,台から見た速度は斜面の向き(角 \(\phi\))。
台は左へ \(V_3\) で動いているので,台から見た速度の水平成分は \(V_{2x} + V_3\)。鉛直成分は,台が水平にしか動かないので \(V_{2y}\) のまま。
\(\tan\phi = \dfrac{V_{2y}}{V_{2x} + V_3}\)
台は水平にしか動かないので,鉛直の速さは床から見ても台から見ても同じ \(V_{2y}\)。水平の速さだけが,台の速さ \(V_3\) のぶん小さい。
\(\tan\phi' = \dfrac{V_{2y}}{V_{2x}}\)
\(\tan\phi\) とくらべると,分子は同じで分母だけが \(V_3\) だけ小さい。だから \(\tan\phi' > \tan\phi\)。 \(0^\circ < \phi,\ \phi' < 90^\circ\) では \(\tan\) は大きくなる一方なので,\(\phi' > \phi\)。
① の \(mV_{2x} = MV_3\) から \(V_3 = \dfrac{m}{M}V_{2x}\)。これを \(\tan\phi\) の式に入れると,
\(\tan\phi = \dfrac{V_{2y}}{\left(1 + \dfrac{m}{M}\right)V_{2x}} = \dfrac{\tan\phi'}{1 + \dfrac{m}{M}}\)
「台が動いても,小球は斜面の向きに飛ぶ」は,台から見た向きと床から見た向きの取りちがえ。 斜面の向きになるのは台から見たときだけで,床から見ると台の動きのぶんだけ水平の速さが小さくなる。
水平方向の運動量が保存するので台が逆向きに動き,水平の速さだけが小さくなる(鉛直はそのまま)。だから \(\phi' > \phi\)。
\(\tan\phi' = \left(1 + \dfrac{m}{M}\right)\tan\phi\)。台が重いほど \(\phi\) に近く,軽いほど急になる。
\(M \to \infty\) では \(\dfrac{m}{M} \to 0\) なので \(\tan\phi' \to \tan\phi\),台の速さも \(V_3 = \dfrac{m}{M}V_{2x} \to 0\)。 式が台を固定したときに重なる。上のシムのスライダーで \(M/m\) を大きくすると,2 本のレイが重なっていくのが見える。
作った式が正しいかは,極端な場合で確かめるのが速い。\(M \to \infty\) で固定した台に戻り,\(M\) を小さくすると \(\phi'\) が 90° に近づく——どちらも場面の見た目と合う。
ばねがたくわえたエネルギーは,小球だけでなく台にも分かれる。台を固定したときの速さを \(V_1\) とすると,
\(\dfrac{1}{2}mV_2{}^2 + \dfrac{1}{2}MV_3{}^2 = \dfrac{1}{2}mV_1{}^2\)
だから,床から見た小球の速さ \(V_2\) は \(V_1\) より小さい。向きは急になるが,速さは落ちる。
いっぽう台から見た速さは \(V_1\) より大きくなる(台がいっしょに動くぶん,斜面にそった動かしにくさが小さくなるため)。 鉛直の速さ \(V_{2y}\) も,固定したときより少し大きい。
外力が鉛直だけ(重力・垂直抗力)なら,水平方向の成分だけが保存する。動く台・動くくさび・台の上の物体の問題はこの形。
斜面にそう・面から離れないといった条件は台から見た速度の話。運動量やエネルギーの式は床から見た速度で立てる。 つなぐのは「床から見た速度 = 台から見た速度 + 台の速度」。