物理 > 動く解説 > 物理 第1編 力と運動|第3章 運動量の保存

名古屋大:衝突で失うエネルギー

❓ 1. 疑問と結論

なめらかな面の上で,止まっている質量 \(m_2\) の小球 2 に,質量 \(m_1\) の小球 1 が速さ \(v\) で当たる(反発係数 \(e\))。 ぶつかると力学的エネルギーの一部が失われる。では,ぶつかり方しだいで,エネルギーはぜんぶ失えるのだろうか。

🎯 結論:失えるのは「相対運動のぶん」だけ

\(\Delta E = E_1(1-e^2)\dfrac{m_2}{m_1+m_2}\)

\(E_1 = \dfrac{1}{2}m_1v^2\) は,ぶつかる直前の小球 1 の運動エネルギー。 \(\dfrac{m_2}{m_1+m_2} \lt 1\) で,さらに \((1-e^2) \le 1\) なので,\(\Delta E\) は \(E_1\) より必ず小さい。 どんなぶつかり方をしても,運動エネルギーをぜんぶ失うことはできない。

💡
運動エネルギーを 2 つに分ける……衝突の前後で合わせた運動量は変わらないので,2 つの重心の速さも変わらない。 そこで \(E_1\) を「重心といっしょに動くぶん」\(\dfrac{m_1}{m_1+m_2}E_1\) と「相対運動のぶん」\(\dfrac{m_2}{m_1+m_2}E_1\) に分けると, 前者は衝突で変わりようがない。失えるのは後者だけ,というのがこの式の中身。

なぜそう分けられるのか,そしてなぜ \((1-e^2)\) 倍なのかを順に見ていく。

📚 2. 解説

① 運動量が変わらない → 重心の速さも変わらない → ② \(E_1\) を 2 つに分ける → ③ 相対運動のぶんが \(e^2\) 倍になる,の順に見る。

① 合わせた運動量は変わらない

  1. 外から受ける力は鉛直だけ

    2 つの小球をひとまとめに見ると,外から受ける力は重力と垂直抗力で,どちらも水平の成分をもたない。 ぶつかるときに互いにおよぼし合う力は内力で,和は 0。

  2. 水平方向の運動量は保存

    衝突のあと,小球 1 が左へ速さ \(v_1\),小球 2 が右へ速さ \(v_2\) で動くとすると,右向きを正として

    \(m_1v = -m_1v_1 + m_2v_2\)

  3. だから重心の速さも変わらない

    重心の速さは「全運動量 ÷ 全質量」なので,

    \(V = \dfrac{m_1v}{m_1+m_2}\)

    全運動量が変わらないなら,\(V\) も衝突の前後で同じ。

② \(E_1\) は「重心運動のぶん」と「相対運動のぶん」に分かれる

  1. 重心運動のぶん

    2 つがくっついても(\(e = 0\))止まらず,重心といっしょに速さ \(V\) で進み続ける。この「2 つが重心といっしょに動く運動エネルギー」が重心運動のぶん。\(V = \dfrac{m_1v}{m_1+m_2}\) を入れると,

    \(\dfrac{1}{2}(m_1+m_2)V^2 = \dfrac{m_1}{m_1+m_2}E_1\)

  2. 残りが相対運動のぶん

    \(E_1\) から引けば,

    \(E_1 - \dfrac{m_1}{m_1+m_2}E_1 = \dfrac{m_2}{m_1+m_2}E_1\)

    これは「重心といっしょに動いて見たときに見える,2 つの動きの運動エネルギーの和」と同じ値になる。重心から見ると 2 つは重心に向かって近づき,くっつくと止まって見える=このぶんがすべて消える。

  3. 重心運動のぶんは失えない

    ① で見たとおり \(V\) は衝突で変わらないので,重心運動のぶんは衝突の前後で同じ。 減らせるのは相対運動のぶんだけ。

③ 相対運動のぶんは \(e^2\) 倍になる

  1. 反発係数の決まり

    遠ざかる速さは,近づく速さの \(e\) 倍。近づく速さは \(v\),遠ざかる速さは \(v_1+v_2\) なので,

    \(v_1 + v_2 = e\,v\)

  2. 相対運動のぶんは相対速度の大きさの 2 乗に比例

    相対運動のぶんは \(\dfrac{1}{2}\mu v_{\text{rel}}{}^2\)(\(\mu = \dfrac{m_1m_2}{m_1+m_2}\) は換算質量)の形に書ける。 \(v_{\text{rel}}\) が \(e\) 倍になるので,このぶんは \(e^2\) 倍になる。

  3. 残るのが \(e^2\) 倍,失うのが \((1-e^2)\) 倍

    相対運動のぶん \(\dfrac{m_2}{m_1+m_2}E_1\) にかけて,

    \(\Delta E = (1-e^2)\cdot\dfrac{m_2}{m_1+m_2}E_1 = E_1(1-e^2)\dfrac{m_2}{m_1+m_2}\)

⚠️ つまずき

「反発係数を小さくすれば,運動エネルギーはいくらでも失える」は勘違い。 運動量が保存するかぎり重心の速さは変わらないので,重心運動のぶん \(\dfrac{m_1}{m_1+m_2}E_1\) は必ず残る。 \(e = 0\)(合体する衝突)でも,失えるのは相対運動のぶんの全部までで,それ以上は失えない。

🔑 まとめ

🔍 3. もっと詳しく

📏 両方が動いていても,同じ形になる

ここまでは小球 2 が止まっている場合で見たが,2 つとも動いていても話は同じ。 衝突の前の速度を \(u_1\)・\(u_2\) とすると,失う力学的エネルギーは

\(\Delta E = \dfrac{1}{2}\mu(1-e^2)(u_1-u_2)^2 \qquad \left(\mu = \dfrac{m_1m_2}{m_1+m_2}\right)\)

\(u_2 = 0\) を入れると \(\dfrac{1}{2}\mu(1-e^2)u_1{}^2 = E_1(1-e^2)\dfrac{m_2}{m_1+m_2}\) となり,上の式に戻る。 失うぶんを決めているのは,近づく速さ(相対速度)だけで,重心がどれだけ速く動いているかは関係しない。

💬 確かめ方

作った式が正しいかは,極端な場合で見るのが速い。\(e = 1\)(弾性衝突)なら \(\Delta E = 0\), \(u_1 = u_2\)(追いつかない)なら \(\Delta E = 0\)——どちらも「ぶつからない・こすれない」場面と合う。

⚡ \(e = 0\) でも,運動エネルギーは 0 にならない

\(e = 0\) は,ぶつかったあと 2 つが離れない(合体する)衝突。このとき 2 つは重心の速さ \(V\) でいっしょに動くので, 残る運動エネルギーは

\(\dfrac{1}{2}(m_1+m_2)V^2 = \dfrac{m_1}{m_1+m_2}E_1\)

ちょうど重心運動のぶんだけが残る。\(e = 0\) は「失えるだけ失った」状態で,これが限界。 \(m_2\) が \(m_1\) よりずっと大きいとき(\(\dfrac{m_2}{m_1+m_2} \fallingdotseq 1\))は,\(E_1\) のほとんどを失えるが,それでもわずかに残る。

🧭 どこで使えるか