物理 > 動く解説 > 物理基礎 第1編 運動とエネルギー|第2章 運動の法則
床の上に板を置き,その上に小物体をのせる。この板を右へ思い切り引くと,小物体にはたらく摩擦力は右向きだろうか,左向きだろうか。
板のほうが先に進むので,小物体は後ろ(左)へすべる。摩擦力はその逆の右。
水平にはたらく力は摩擦力だけ。だから,その向き(右)に加速する。
なぜ右向きなのか(解説①),小物体はどう動くのか(解説②)の順に見る。
板は手で強く引かれているので,小物体よりずっと速く進む。
板に乗って見ると,小物体は左(後ろ)へ遠ざかっていく。これが「すべろうとする向き」。
すべる向きと逆なので,小物体が受ける摩擦力は右向き。板が動く向きと同じになる。
「板が右へ逃げるのだから,小物体は左向きの力を受ける」——これは誤り。小物体にはたらく水平の力は右向きの摩擦力だけなので,小物体は右向きに加速する。左へ動くことはない。
鉛直には重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N\)(つりあう)。水平には摩擦力 \(f\) だけ。手は板を引いているだけで,小物体には触れていない。
右向きを正にとると \(ma = f\)。板の上をすべっているので \(f\) は動摩擦力 \(\mu' N = \mu' mg\)。よって \(a = \mu' g\)。
加速度は右向き。ただし \(\mu'\) は 1 より小さいことが多いので \(a\) は \(g\) より小さく,板の速さにはとうてい追いつかない。だから板だけが下から抜けていくように見える。
迷ったら相手の面に乗って考える。面から見て物体がどちらへずれようとしているか——その逆が摩擦力。そのうえで,物体 1 つだけを取り出してはたらく力を数える。
静止摩擦でも動摩擦でも同じ。物体が動く向きの逆とはかぎらない。
静止摩擦力はつりあいから(上限は \(\mu N\)),すべっているときの動摩擦力は \(\mu' N\)。
ベルトが動き出すと,箱はベルトに対して後ろへすべる。だから箱が受ける摩擦力は前向き——その摩擦力が箱を運んでいる。板を引く話と,向きの決め方はまったく同じ。
箱がベルトと同じ速さになると,すべりが止まり,そのあとは静止摩擦力でいっしょに動く。
テーブルクロスを一気に引き抜いても食器が残るのは,食器がまったく動かないからではない。食器も摩擦力を受けて引く向きに少しだけ加速する。ただし \(a = \mu' g\) は小さく,クロスが抜けるまでの時間もごく短いので,ほとんど動かないうちにクロスだけがいなくなる。ゆっくり引くと失敗するのは,①すべり出さずに食器がクロスといっしょに動いてしまう(静止摩擦のまま)か,②すべっても摩擦力がはたらく時間が長くなって,食器の速度が大きくなってしまうから。
歩くときは,足が地面を後ろへこする。だから地面からの摩擦力は前向き——進む向きと同じ。車のタイヤも同じで,タイヤが路面を後ろへ押すことで,前向きの摩擦力を受けて進む。摩擦力は,進ませる力にもなる。
床の上の箱を右へ押しても動かないとき,箱は右へすべろうとしているので,摩擦力は左向き。動いていなくても「すべろうとする向き」なら決められる。向きの決め方は,ここまでの場面と同じ。
作用・反作用の法則から,板は小物体から左向きの摩擦力を受ける(小物体が受けた右向きの摩擦力の反作用)。板を引く手は,この摩擦力と,床から受ける摩擦力の両方に逆らって引いていることになる。