物理 > 第5編 原子 > 第1章 電子と光

① 電子

⚡ 1. 陰極線と電子

真空に近いガラス管に高電圧をかけると,陰極から何かが飛び出す。その正体を突き止める。

📜 歴史:電子の発見(人物と年表)

見つける → 正体を決める → 量を測るの順に,30 年あまりかけて進んだ。

  1. 1879クルックス陰極線が影をつくり,磁石で曲がることを示す
  2. 1895ペラン陰極線が負の電荷を運ぶことを示す
  3. 1897J. J. トムソン比電荷を測り,電子を発見
  4. 1909〜1913ミリカン油滴の実験で電気素量を測定

トムソンは,管の端の蛍光面に目盛りを付け,電場や磁場をかけたとき,光る点がどれだけずれるかを読んだ。

そして,比電荷が水素イオンの 1000 倍以上もあることから,原子よりずっと軽い粒子だと考えた。それまで原子はそれ以上分けられないと思われていたので,「原子の中に部品がある」という大きな発見になった。

💡 気体を抜いた管に電圧をかける

空気などの気体も,雷のように高い電圧がかかると電流を通す(気体放電)。ガラス管に電極を封じ,気体を抜きながら高い電圧をかける。

  1. 高電圧をかける

    ふつうの気圧では,電流は流れない。

  2. 気圧を下げる

    管の中の気体が光り,電流が流れる。

  3. さらに気体を抜く

    気体の光が消え,陽極側のガラスが光る。

気圧の低い気体の中を電流が流れる現象を真空放電という。

このとき陰極から出る流れを陰極線という。目に見えないが,当たったガラスや蛍光物質が光るので,どこに当たったかが分かる。

🏮 豆知識:ネオンサインと蛍光灯

ネオンサインは,低い気圧のネオンを入れた管の真空放電だ。ネオン原子が光って,赤みがかったオレンジ色に輝く。ほかの気体を入れると,別の色になる。

蛍光灯も真空放電を使う。管の中の水銀の蒸気が,目に見えない紫外線を出す。その紫外線が管の内側に塗った蛍光物質に当たり,白い光に変わる。

どちらも,気圧の低い気体の中を電流が流れるときに光る,という同じしくみだ。

🔎 陰極線の正体

19 世紀の終わりには,陰極線が波か,粒子の流れかで意見が分かれていた。実験で分かった性質は,次の 3 つだ。

  • 🌑 影をつくる

    陰極線はまっすぐ進む

  • ↪️ 電場・磁場で曲がる

    電場では,+の極板の側へ曲がる

  • 🔁 材料を変えても同じ

    電極の金属・気体の種類によらない

図は,極板の間の電場で曲がる陰極線。

陰極線は,負の電荷をもつ粒子の流れである。

この粒子を電子,その流れを電子線とよぶ。

🔥 ここが超重要

電極や気体を変えても同じ粒子が出る。だから,すべての原子にふくまれる部品だと考えられた。

💬 補足

磁場で曲げるとき,電流の向きは陰極線の進む向きと逆にとり,フレミングの左手の法則を使う。

1897 年,トムソンは曲がり方から,この粒子が水素原子よりずっと軽いことを示した。

✏️ 問題:陰極線と電子

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🔬 2. 電子の比電荷(トムソンの実験)

電子 1 個は,あまりに小さい。それでもトムソンは,曲がり方から電子の正体に迫った。

電子 1 個の質量も電気量も,小さすぎて直接は測れない。では,電子の曲がり方から何なら測れるか?
電子の電気量だけ
電子の質量だけ
電気量と質量の比
何も測れない
電気量が 2 倍になれば力は 2 倍,質量が 2 倍になれば加速度は半分になる。曲がり方を決める加速度は電気量と質量の比だけで決まるので,比なら測れる。電気量そのものを測ったのは,ミリカンだ。

⚖️ 比電荷

電子の電気量を \(-e\),質量を \(m\) とする。電場や磁場から受ける力は \(e\) に比例し,加速度は \(m\) に反比例する。

💡
比電荷……粒子の電気量の大きさと質量の比 \(\dfrac{e}{m}\)〔C/kg〕

🧲 磁場だけで曲げる

磁束密度 \(B\) の磁場に,電子を速さ \(v\) で垂直に入れると,半径 \(r\) の等速円運動をする。

  1. 円運動の運動方程式

    ローレンツ力が向心力になる。

    \(m\dfrac{v^2}{r} = \)\(evB\)

  2. 比電荷について解く

    両辺を \(mvB\) で割る。

    \(\dfrac{e}{m} = \)\(\dfrac{v}{Br}\)

📌 ポイント

\(B\) と \(r\) は測れる。しかし,速さ \(v\) が分からないので,磁場だけでは比電荷は決まらない。

↘️ 電場だけで曲げる

長さ \(l\) の極板の間に,強さ \(E\) の電場をかける。そこへ,電子を速さ \(v\) で極板に平行に入れる。

  1. 加速度

    運動方程式 \(ma = eE\) より,

    \(a = \)\(\dfrac{e}{m}E\)

  2. 極板を通る時間

    極板に平行な向きは等速で進む。

    \(t = \)\(\dfrac{l}{v}\)

  3. 極板を出るまでのずれ

    電場に平行な方向は等加速度運動。

    \(y = \dfrac{1}{2}at^2 = \)\(\dfrac{e}{m}\cdot\dfrac{El^2}{2v^2}\)

\(y\) を測れば,比電荷が出そうだ。

\(\dfrac{e}{m} = \)\(\dfrac{2v^2y}{El^2}\)

しかし,ここでも速さ \(v\) が要る。

⚡ 電場と磁場で直進させる

磁束密度 \(B\) の磁場も加え(紙面の表から裏の向き),電子がまっすぐ進むように調節する。

  1. 2 つの力は逆向き

    静電気力は上,ローレンツ力は下。

  2. 力がつりあう

    大きさが等しいと,電子は直進する。

    \(eE = \)\(evB\)

\(v = \)\(\dfrac{E}{B}\)
\(v\)〔m/s〕:直進する電子の速さ
\(E\)〔V/m〕:電場の強さ
\(B\)〔T〕:磁束密度
🔥 ここが超重要

電場だけ・磁場だけでは \(v\) が分からない。両方をかけて直進させれば,\(v\) が決まる。

✏️ 問題:電子の比電荷(トムソンの実験)

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💧 3. 電気素量(ミリカンの実験)

ミリカンは,小さな油滴の電気量を 1 個ずつ測った。並べると,ある規則が見えてくる。

油滴の電気量を何個も測って並べると,どんな値が出てくるか?
どんな値も同じくらい出る(連続した値)
ある値の整数倍だけが出る(とびとびの値)
どの油滴も同じ値になる
油滴は,電子を何個か余分にもつか,失って帯電する。電子は 1 個,2 個…と数えるものなので,電気量は電子 1 個ぶんの整数倍だけになる。どの油滴も同じにはならない(ついた電子の数が違う)。

🛢️ 油滴にはたらく力

極板の間に油滴(質量 \(m\))を吹き入れ,X 線を当てて帯電させる(電気量 \(-q\))。空気の抵抗力は速さに比例し,比例定数を \(k\) とする。

  1. 電場をかけて静止させる

    電場 \(E\) を調節し,油滴を止める。

    \(mg = \)\(qE\)

  2. 電場を 0 にして落とす

    やがて,一定の速さ \(v\) で落ちる。

    \(mg = \)\(kv\)

2 つの式から \(mg\) を消すと,油滴の電気量が求まる。

\(q = \)\(\dfrac{kv}{E}\)
\(q\)〔C〕:油滴の電気量の大きさ
\(k\)〔kg/s〕:抵抗力の比例定数
\(v\)〔m/s〕:電場 0 で落ちる速さ
\(E\)〔V/m〕:静止させた電場
🔬 発展:一定の速さになるまでの時間

電場 0 で落ちる油滴の運動方程式は,下向きを正として

$$ m\dfrac{dv}{dt} = mg - kv $$

速さ \(v\) が大きくなるほど右辺は小さくなり,\(mg = kv\) で加速が止まる。これが終端速度だ。

この式を解くと,速さは \(\dfrac{m}{k}\)〔s〕ほどの時間で,終端速度にほぼ達する。

\(m = 4.9\times10^{-15}\) kg,\(k = 3.2\times10^{-10}\) kg/s の油滴なら,約 \(1.5\times10^{-5}\) s。油滴は一瞬で終端速度になるので,顕微鏡では,はじめから一定の速さで落ちているように見える。

🪜 電気量はとびとび

多くの油滴で \(q\) を測り,数直線に並べる。

  • 📍 値の集まり方

    点は,とびとびの位置にだけ並ぶ

  • 📏 間隔

    並ぶ位置の間隔は,どこも同じ

  • 🎯 0 からの距離

    どの位置も,間隔のちょうど何倍か

💡
電気素量 \(e\)……電気量の最小単位
🔥 ここが超重要

物体の電気量は,必ず \(e\) の整数倍になる。電気量は連続した値をとらない。

🧮 計算例:油滴 1 個の電気量

ある油滴は,電場 \(E = 1.0\times10^{5}\) V/m(電圧 500 V,間隔 5.0 mm)で静止した。

電場を 0 にすると,\(v = 1.5\times10^{-4}\) m/s の一定の速さで落ちた。抵抗力の比例定数は \(k = 3.2\times10^{-10}\) kg/s とする。

$$ q = \dfrac{kv}{E} = \dfrac{3.2\times10^{-10}\times1.5\times10^{-4}}{1.0\times10^{5}} $$ $$ {}= 4.8\times10^{-19}\ \text{C} $$

多くの油滴でこの計算をくり返し,求めた値を数直線に並べる。

📐 測った値から電気素量を決める

測った \(q\) が 4.8,8.1,11.3,16.0(単位は \(10^{-19}\) C)だったとする。誤差があっても,次の手順で \(e\) が求まる。

  1. 小さい順に並べ,差をとる

    差も,\(e\) の何倍かになる。

  2. \(e\) の見当をつける

    差は,ある値のほぼ 2,2,3 倍。

  3. 各値が何倍かを決める

    小さい順に,3,5,7,10 倍。

  4. 値の和を,整数の和で割る

    値の和は 40.2,整数の和は 25。

    \(e = \dfrac{40.2\times10^{-19}}{25}\ \text{C}\)

\(e = \)\(1.6\times10^{-19}\)\(\ \text{C}\)
\(e\)〔C〕:電子 1 個の電気量の大きさ
⚠️ 要注意!

差だけで決めない。差がどれも \(e\) の 2 倍のこともある。もとの値も割り切れるかを確かめる。

⚖️ 電子の質量

電気素量 \(e\) を,トムソンが測った比電荷で割れば,電子 1 個の質量が出る。ここからの \(m\) は電子の質量だ。

$$ m = e \div \dfrac{e}{m} = \dfrac{1.60\times10^{-19}}{1.76\times10^{11}} $$

\(m = \)\(9.1\times10^{-31}\)\(\ \text{kg}\)
\(m\)〔kg〕:電子の質量

✏️ 問題:電気素量(ミリカンの実験)

問題を読み込んでいます…

🎯 4. 入試対策

比電荷・電気素量を求める問題の,よく出る形を押さえる。

🧮 ① 加速電圧と磁場で比電荷を求める

静止していた電子を電圧 \(V_0\) で加速し,磁束密度 \(B\) の磁場に垂直に入れると,半径 \(r\) の円運動をした。

加速はエネルギー,円運動は運動方程式で立て,\(v\) を消す
  1. 電圧で加速する

    \(eV_0 = \dfrac{1}{2}mv^2\)

  2. 磁場の中で円運動する

    \(m\dfrac{v^2}{r} = evB\)

  3. \(v\) を消す

    \(v = \dfrac{eBr}{m}\) を加速の式に代入。

    \(\dfrac{e}{m} = \)\(\dfrac{2V_0}{B^2r^2}\)

🎯 入試では

直径や,入口から出口までの距離で与えられることもある。\(r\) がどこかを図で確かめる。

🧮 ② 極板を出た電子が蛍光面に当たる位置

極板を出た電子は,直進して蛍光面に当たる。極板の中央から蛍光面までを \(L\) とし,蛍光面でのずれ \(y\) を求める。

  1. 極板を出るまでのずれ

    「電場だけで曲げる」で \(y\) と書いた量。

    \(y_1 = \dfrac{e}{m}\cdot\dfrac{El^2}{2v^2}\)

  2. 出口での傾き

    \(v_y = at\)。出口の向きの角を \(\theta\)。

    \(\tan\theta = \dfrac{v_y}{v} = \dfrac{e}{m}\cdot\dfrac{El}{v^2}\)

  3. 出たあとのずれ

    蛍光面まで直進する。

    \(y_2 = \left(L - \dfrac{l}{2}\right)\tan\theta\)

\(y = y_1 + y_2 = \)\(\dfrac{e}{m}\cdot\dfrac{ElL}{v^2}\)
\(y\)〔m〕:蛍光面でのずれ
\(l\)〔m〕:極板の長さ
\(L\)〔m〕:極板の中央から蛍光面まで

🧮 ③ 加速してから曲げる

電子を電圧 \(V_0\) で加速してから,② の極板に入れる。蛍光面でのずれは,加速電圧で決まる。

  1. 電圧で加速する

    \(eV_0 = \dfrac{1}{2}mv^2\)

  2. ずれの式に代入する

    \(mv^2 = 2eV_0\) を入れる。

    \(y = \)\(\dfrac{ElL}{2V_0}\)

🔥 ここが超重要

同じ電圧で加速すれば,ずれは比電荷によらない(\(e\) と \(m\) が消える)。

📐 ④ ミリカンの実験:油滴を上昇させて測る

電場をかけたまま,一定の速さで上昇させる測り方も出る。落下の速さを \(v_1\),上昇の速さを \(v_2\) とする。

  1. 電場 0 で落とす

    \(mg = kv_1\)

  2. 電場をかけて上げる

    抵抗力は下向きになる。

    \(qE = mg + kv_2\)

  3. \(mg\) を消す

    \(q = \)\(\dfrac{k(v_1 + v_2)}{E}\)

⚠️ 要注意!

抵抗力は,いつも動く向きと逆。上がるときは,重力と同じ下向きにはたらく。

✏️ 問題:入試対策

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🔑 まとめ