物理 > 第1編 力と運動 > 第3章 運動量の保存

② 運動量保存則

💥 1. 直線運動における運動量保存則

「衝突で個々の運動量は変化するが、その和は一定に保たれる」——これが運動量保存則です。

スケートリンクで体重80kgの大人と体重40kgの子どもが静止した状態から互いを押した。速く動き出すのはどちら?
子ども(大人の2倍の速さ)
大人(力が強いから)
同じ速さで動く
押す前は2人とも静止(合計運動量 = 0)。押した後も合計は0のまま。大人の運動量と子どもの運動量が等しくなるので、質量が半分の子どもは2倍の速さで動きます。これが運動量保存則です。

速度 \(v_1\) の物体Aが速度 \(v_2\) の物体Bに衝突し、それぞれ \(v_1'\), \(v_2'\) になったとします。作用反作用の法則から、AとBの運動量変化の和はゼロになります。

\(m_1 v_1 + m_2 v_2 = \)\(m_1 v_1' + m_2 v_2'\)
衝突前の運動量の和 = 衝突後の運動量の和
運動量保存則:物体系が内力を及ぼしあうだけで外力を受けていないとき、全体の運動量は変化しない。

弾性衝突と非弾性衝突の比較

弾性衝突では運動エネルギーも保存されますが、完全非弾性衝突では一部が熱や音に変わり減少します。切り替えて違いを確認しましょう。

ばねでつながれた 2 台車 — いちばん縮む瞬間

衝突を「一瞬の出来事」ではなく、ばねを通して力がはたらき続ける過程として見てみます。前にばねを付けた台車 A が、静止した台車 B に近づきます。ばねがいちばん縮む瞬間、2 台は止まっていません。同じ速度で一緒に動いています。近づく速さ(相対速度)が 0 になった瞬間が、縮みの最大だからです。

「最大の縮みで止める」を押すと、A と B の速度矢印が同じ長さになっているのが見えます。このとき運動エネルギーはまだ \(\tfrac12(m_\mathrm{A}+m_\mathrm{B})V^2\) だけ残っていて、ばねに預けられるのは残りの一部だけ。「2 台とも止まる」と考えると運動量が消えてしまい、保存則に反します。

「重心を見る」を押すと、紫の印が衝突の前も最中も後もまったく同じ速さで進み続けるのが分かります。水平方向に外力がないので、重心は等速直線運動を続けるのです。

📌 ポイント

運動量保存則は、衝突だけでなく、分裂(爆発)やくっつく場合にも成り立つ。外力がはたらいていても、その力積が衝撃力に比べて無視できれば、衝突の直前・直後で成立する。

外力がなければ、重心は勝手に動かない

運動量保存は、言いかえると「重心の速度が変わらない」ということです。はじめ静止していたなら、重心はずっとそこから動きません。次のシムで 2 つの場面を切り替えられます。

板の上を歩く。氷の上に置いた長さ \(4.0\ \mathrm{m}\)・\(40\ \mathrm{kg}\) の板の上を、\(60\ \mathrm{kg}\) の人が端から端まで歩きます。板の上では \(4.0\ \mathrm{m}\) 歩いたのに、地面に対しては \(1.6\ \mathrm{m}\) しか進めません。板が逆に \(2.4\ \mathrm{m}\) 下がるからです。「重心を見る」を押すと、紫の印がまったく動かないのが分かります。

動く台を登る。なめらかな床の上の曲面台に、物体が \(7.0\ \mathrm{m/s}\) で乗り上げます。台が固定なら \(v_0^2/2g = 2.5\ \mathrm{m}\) 登れますが、台が動けるだけで \(1.25\ \mathrm{m}\)、ちょうど半分になります。最高点では物体と台が同じ速度 \(3.5\ \mathrm{m/s}\) で動いていて、その運動エネルギーは高さに変えられないからです。

📐 公式の導出:運動量保存則

物体A(質量 \(m_1\))と物体B(質量 \(m_2\))が衝突するとき、AがBから受ける力を \(\vec{F}\)、BがAから受ける力を \(-\vec{F}\)(作用反作用)とする。

衝突時間を \(\Delta t\) とすると、各物体の運動量変化は:

$$ m_1\vec{v}_1' - m_1\vec{v}_1 = \vec{F}\Delta t $$

一方、物体Bは作用反作用の法則により逆向きの力積を受けるので:

$$ m_2\vec{v}_2' - m_2\vec{v}_2 = -\vec{F}\Delta t $$

両辺を足すと右辺が0になるので:

$$ m_1\vec{v}_1' + m_2\vec{v}_2' = m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2 $$

つまり、作用反作用の法則により、系全体の運動量の和は衝突前後で変わらない。

⚠️ 注意

運動量保存則が成り立たない場合もある。系に外力がはたらくとき(例:摩擦のある面上での衝突で接触時間が長い場合や,衝突中に重力の効果が無視できないほどゆっくりした衝突)は,外力の力積が無視できず運動量は保存されない。「外力の力積が衝撃力に比べて十分小さいか」を常に確認しよう。

🧮 計算例:正面衝突後の速度(完全非弾性衝突)

条件:質量 2.0 kg の物体 A が 6.0 m/s で右向きに進み、質量 3.0 kg の静止した物体 B に正面衝突してくっついた。

運動量保存則より(右向きを正)

$$ m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1 + m_2)V $$

数値を代入して整理すると、

$$ 2.0 \times 6.0 + 3.0 \times 0 = (2.0 + 3.0) \times V $$

両辺を計算して \(V\) を求めると、

$$ 12 = 5.0 \times V \quad \therefore\ V = 2.4 \text{ m/s} $$

失われた運動エネルギーは

$$ \Delta K = \frac{1}{2} \times 2.0 \times 6.0^2 - \frac{1}{2} \times 5.0 \times 2.4^2 = 36 - 14.4 = 21.6 \text{ J} $$

答え:合体後の速度は右向きに \(2.4\) m/s。運動エネルギーの \(21.6\) J(60%)が熱や音に変換された。

🤔 豆知識:「運動量保存則が使える条件」を正しく理解する

運動量保存則は「系全体に外力がはたらかない」(または外力の和が0の)ときに成り立ちます。重力がはたらいている場合でも、衝突の瞬間は衝撃力が重力より圧倒的に大きいため、近似的に運動量保存が成立します。ただし、衝突後に時間が経つと重力の効果が現れます。

🎆 豆知識:花火とロケット — 身近な運動量保存

打ち上げ花火:爆発前の運動量=爆発後の全破片の運動量の合計。花火が球形に広がるのは各方向の破片の運動量がバランスよく配分されるよう火薬が詰められているから。最高点(速度 0)で爆発すると合計運動量が 0 なので完全な球形になる。

ロケット:燃焼ガスを後方に噴射して加速。ガスの運動量(後方)とロケットの運動量(前方)の和が保存されるので、ガスを噴射するほどロケットは加速する。宇宙空間でも地面を蹴らずに加速できるのはこの原理のおかげだ。

運動量保存則が成り立つための条件として正しいのはどれ?
弾性衝突であること
摩擦がないこと
系に外力がはたらかない(または外力の力積が無視できる)こと
運動量保存則の条件は「系全体に外力がはたらかない(または外力の力積が無視できる)」ことです。弾性・非弾性の区別は関係なく、摩擦があっても衝突の瞬間(極めて短い時間)なら力積が無視でき、近似的に成立します。

🎱 2. 平面運動における運動量保存則

前述の運動量保存則は,運動が一直線上に限られません。2次元の衝突でも,ベクトルの形で同じ法則が成立します。成分ごとに運動量が保存されることを理解しよう。

カーリングのストーンが静止しているストーンに斜めからぶつかった。ぶつかった後、2つのストーンの運動量の矢印を足し合わせると?
ぶつかった衝撃で合計は大きくなる
衝突前のストーンの運動量と同じになる
衝突で運動量はすべて消える
氷上で摩擦がほぼゼロなので外力が無視でき、運動量保存則が成り立ちます。2つのストーンの運動量ベクトルを足すと、衝突前に動いていたストーンの運動量とぴったり一致します。

2物体が斜めに衝突する場合、運動量保存則はベクトルの式で表され、成分ごとに独立に成り立ちます。

\(m_1\vec{v_1} + m_2\vec{v_2} = \)\(m_1\vec{v_1'} + m_2\vec{v_2'}\)
x成分:\(m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = m_1 v_{1x}' + m_2 v_{2x}'\)
y成分:\(m_1 v_{1y} + m_2 v_{2y} = m_1 v_{1y}' + m_2 v_{2y}'\)

2D衝突シミュレーション

2球が斜めに衝突する様子を観察します。緑の矢印(全運動量)が衝突前後で変化しないことを確認しましょう。

🎱 豆知識:ビリヤードの物理

ビリヤードで手球が的球に斜めに当たると、2球はほぼ直角に分かれます。これは同じ質量の弾性衝突(e≒1)で運動量とエネルギーが保存される結果です。プロ選手は無意識にこの物理法則を活用しています。

📐 発展:微積分による運動量保存の証明

物体AとBが内力のみで相互作用する系を考えます。AがBから受ける力を \(\vec{F}\)、BがAから受ける力を \(-\vec{F}\)(作用反作用)とすると:

$$ \frac{d\vec{p}_A}{dt} = \vec{F}, \quad \frac{d\vec{p}_B}{dt} = -\vec{F} $$

両辺を足すと:

$$ \frac{d}{dt}(\vec{p}_A + \vec{p}_B) = \vec{0} $$

よって系全体の運動量 \(\vec{p}_A + \vec{p}_B\) は時間変化しません。外力が 0 であれば(または外力の和が 0 であれば)、何体の系でも運動量は保存されます。

同じ質量の2球が弾性衝突(\(e = 1\))で斜めに衝突した。衝突後の2球の進行方向のなす角は?
90°
60°
180°
角度は質量比で変わるので決まらない
同じ質量の弾性衝突では、運動量保存とエネルギー保存の両方を満たすと、散乱角の和が \(\alpha + \beta = 90°\) になることが導かれます。ビリヤードで2球がほぼ直角に分かれるのはこの原理です。

🎯 3. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

2体の衝突問題

🧮 ① 典型問題:一直線上の衝突(運動量保存+反発係数)

質量 \(m_1\)(速度 \(v_1\))と \(m_2\)(速度 \(v_2\))の正面衝突。反発係数 \(e\)。

【立式】運動量保存則より:

$$ m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2' \quad \cdots (1) $$

反発係数の定義より:

$$ e = -\frac{v_1' - v_2'}{v_1 - v_2} \quad \cdots (2) $$

(2) を変形すると \(v_1' - v_2' = -e(v_1 - v_2)\)。(1) と連立して \(v_1', v_2'\) について解くと:

$$ v_1' = \frac{(m_1 - em_2)v_1 + (1+e)m_2 v_2}{m_1 + m_2} $$

同様に \(v_2'\) についても解くと、物体Bの衝突後の速度は次のようになる。

$$ v_2' = \frac{(1+e)m_1 v_1 + (m_2 - em_1)v_2}{m_1 + m_2} $$

🧮 ② 典型問題:完全非弾性衝突(合体)

\(e = 0\) のとき衝突後は一体(\(v_1' = v_2' = V\))。運動エネルギーの損失が最大になる。

【立式】運動量保存 \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1 + m_2)V\) より、合体後の速度は:

$$ V = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2} $$

失われる運動エネルギーは、衝突前後の差を計算して整理すると:

$$ \Delta K = \frac{1}{2}\frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}(v_1 - v_2)^2 $$

この式は「換算質量 \(\mu = \frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}\)」と「相対速度 \(v_1 - v_2\)」で表される。

🧮 ③ 典型問題:2次元衝突(斜め衝突)

質量 \(m_1\) が速度 \(\vec{v}_1\) で静止物体 \(m_2\) に衝突するとき、x成分とy成分でそれぞれ運動量保存の式を立てます。

【立式】衝突後、\(m_1\) が角度 \(\alpha\)、\(m_2\) が角度 \(\beta\) の方向に散乱するとすると:

x成分の運動量保存:

$$ m_1 v_1 = m_1 v_1'\cos\alpha + m_2 v_2'\cos\beta $$

一方,y成分では衝突前の運動量が0なので:

$$ 0 = m_1 v_1'\sin\alpha - m_2 v_2'\sin\beta $$

弾性衝突(\(e=1\))の場合はエネルギー保存も加えて3式。特に等質量の弾性衝突では \(\alpha + \beta = 90°\)(散乱角の和が直角)。

🔑 まとめ